2022年11月、瀬戸内国際芸術祭2022 4

4.四日目(22年11月5日(土))、本島、高見島

本島

本島地図                 本島、笠島地区地図               水上タクシー

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 7時50分、ホテル出発。丸亀港発のフェリーは9時発なので、560円/人に対して1000円/人と高いが水上タクシーで8時40分丸亀港出発。9時本島港着。本島は、大小28の島からなる塩飽諸島の中心の島。戦国時代は塩飽水軍として、江戸時代には幕府の御用船方として活躍した。

 バスの出発前に近くの作品を見る。港にho01 Vertrek「出航」:石井章、2013年:日本で初めて太平洋を往復した咸臨丸には、塩飽諸島出身の船員が多く乗船していたという。これにちなみ、帆を上げ宙に浮く咸臨丸の彫刻を設置した。

 港から左手の道を進むとT字路の角に、ho05 漆喰、鏝絵かんばんプロジェクト:村尾かずこ、2013年:島の人々から聞いた言い伝えや、島に活気あふれていた時代のエピソードを聞き取り調査し、図案化。絵看板として、島内の店や民家の軒先に設置した。バスの出る時間に間に合うように急いで戻る。

ho01                       ho05                     本島港

 フェリーが着き、9時45分にシャトルバス発車。9時55分に笠島北バス停に着く。戻りながら海岸に降りると、ho13 水の下の空:アレクサンドル・ポリマリョフ、2016年:作家は島で漁師の重労働や造船技術を知り、文化をかたちづくった時の流れを感じ、和船を思わせる立体作品を制作。船底に古い網やロープがもつれあい、幻想的な町のようなレリーフ。作品の下の地面には鏡が敷かれ船底と空を映し出している。

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 海沿いの道を進み、笠島港を過ぎると笠島重要伝統的建造物保存地区に入る。塩飽水軍の根拠地として発展し、江戸時代に瀬戸内海の統治に重要な役割を果たした。江戸時代に建築された伝統的建造物の町並みが残る。保存地区に指定され、電線も地下化されて落ち着いたいい雰囲気。

笠島港近くから瀬戸大橋            笠島の町並み                マッチョ通り

 港から右に入って進むとho16 石が視力を失っていないように、盲人も視力を失っていない:アンリ・ルンジャーン、2022年:人間の世界観とは異なる、変化し続ける自然のあり方をさまざまな素材で表現した立体作品。重い石を中心として無数のロープが張り巡らされ、その1本1本のロープの先に竹筒が吊るされている。ロープの張力によって静止していた竹筒は、風が吹くとお互いがぶつかりあって自然の詩を奏でる。

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ho16                      ho16                   マッチョ通り

 町の本通・マッチョ通り(町屋通りの訛)に戻って右に進むとすぐにすぐh015 SETOUTI STONE LAB:川島大幸、2022年:備讃瀬戸に特徴的な石切り場の遺構やこの地域で育まれた石切りの技術、そこから派生した産業や生活文化から着想を得て、デジタル技術と伝統的な石彫技術を用いて複数点の作品を制作し、笠島の町並み保存地区内にある旧家内に設置する。

ho15、石切り場遺構の模型             ho15                      ho15

 先に進み笠島町並み保存センターのある四つ辻で美也子がいないのに気付く。そのうち仁たちも戻ってきて三人で探すが見当たらず途方に暮れたが、はぐれたことに気づいて戻ってきた美也子に出会ってほっとする。四つ辻で右折して先に進んだらしいが、誰もいないので引き返してきたとのこと。

 吉田邸に入る。築100年、塩飽大工意匠の家。塩飽の優秀な船大工が、江戸から明治にかけて宮大工などに転業し「塩飽大工」として寺社や民家を建てた。吉田邸はその一つ。建築部材や調度品など一流のものが使われたほか、庭の松も見ごたえがあり、若冲の掛け軸も見ることが出来る。

マッチョ通り、左手:吉田邸         笠島の町並み                    吉田邸
有田焼の便器                   庭                       脇庭
座敷から脇庭            鼓形の照明器具        左手奥笠島町並み保存センターの四つ辻

 笠島町並み保存センターは塩飽諸島を統治する家柄であった真木家邸宅で江戸期の建物。現在は案内所として利用されている。この裏あたりにho10 Moony Tunes:ツェ・スーメイ、2016年:旧家に直径2m超の円形大理石と赤い糸で吊った火山岩を設置。潮の満ち引きを作る”月”を表現した空間で宇宙との関わりを表す。

和船                     笠島の町並み                笠島の町並み
ho10                        ho10                     ho10

 四つ辻まで戻り、南に向かって坂を上る。しばらく行くと右手にho12 レボリューション/ワールドラインズアリシア・クヴァーデ、2019年:塩飽大工の技術の粋が詰まった日本家屋の内部に、ステンレスのリングと自然石で惑星軌道のうねりを示す作品や、木枠と鏡を使って見る者の意識下の認識のズレを生じさせるような作品を配置。内と外に向けてゆらぎ、拡散していく感覚が、均整の取れた家屋空間に凝縮される。

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 その少し先左手にho14 無二の視点から:藤原史江、2022年:石切り場にあった石を用いて、石の視点から見た風景を描く。石たちが文字通り身を粉にして、自らの色と硬さで描いた瀬戸内の現在が黒いサンドペーパーの上に現れる。描画によってすり減った石も同時に展示される。瀬戸内で産出される多様な石の個性も楽しむことが出来る。黒いサンドペーパーに石をこすりつけて描く技法の表現力に驚く。
 その先を進み専称寺を過ぎて峠を越し、集落にかかる右手の家に鏝絵の飾りがあった。ho05の作家も案外これなどからヒントを得たのかもしれない。

峠道                      鏝絵              笠島・甲生地区の埋め墓

 二又道を左に進むと海辺の広場にho09 善根湯×版築プロジェクト:斎藤正×続・塩飽大工衆、2013年:版築とは土を層状につき固めて建物の壁などを作る方法で、高さ8mの塔などがある建物を作った。かって塩飽諸島には優秀な船大工が多くおり、江戸中期以降、宮大工や家大工となった。その復活を願い、賊・塩飽大工衆として建設。

 この隣に墓地がある。笠島・甲生地区の埋め墓で、木の墓標や土饅頭、自然石だけの見慣れないもの。説明によると、これは死者の遺体を埋葬するための墓地「埋め墓」で、山、川、海岸など集落から離れた場所に造られる。別に霊魂を祀り参拝するために、寺の境内や集落に近いところに石塔を建てる「詣り墓」を作る。これを「両墓制」と言い、古くは近畿地方を中心に広く分布したが、現在では島嶼部や海岸部をのぞいては見ることが出来なくなった。珍しいものを見られた。

ho09                       ho09                      ho09

 甲生口のバス停で左折し海岸に出ると左手に徳玉神社がある。ここを左折してかなり歩くとho08 産屋から、殯屋から:古郡弘、2016年:本島でゆったりした濃い気配を感じた作家は、死者を埋葬する場と霊を祀る場所を分ける習俗の両墓制に着目。繰り返される”生と死”を見つめ、過去から未来へつながる場として、島で感じた空気や大地のエネルギーを作品に置き換えた。霊的なものを感じる空間。

ho08                       ho08                      ho08

 来た道を戻ると、徳玉神社の向かいにho17 遠くからの音:DDMY STUDIO、2022年:コオロギのような音を鳴らし、ホタルのように瞬く小さな昆虫ロボットが空家に点在。鑑賞者がロボットに近づきすぎると静かになり、離れると音を鳴らす。美しさを賞賛するための適切な距離の必要性を感じる作品。

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 先に進み、東光寺を過ぎて水路に出、これに沿って進むと塩飽勤番所の前に出る。江戸時代、塩飽諸島は650人の船方衆が治める独特の自治が許されていた。船方衆の入札によってえらばれた3人の年寄りたちが政務をとり、大小28の島々を収めた政所。重要文化財の立派な建物が残っていて、塩飽水軍にかかわる資料などが展示されている。門の前の露店で鶏飯、鶏の唐揚げを買う。

 その先を港へ曲がらずにまっすぐ進むとho06咸臨の家:真壁陸二、2016年:咸臨丸の水夫の生家が会場。江戸時代の杉戸絵やモスクのタイル絵、教会のモザイク画などを発想の原点にした多様で色彩豊かな空間を制作。

塩飽勤番所跡                 塩飽勤番所跡                    ho06
ho06                      ho06                 鶏飯、鶏の唐揚げ

 海岸へ出て、船の時間に間に合うように海岸沿いの道を急ぐ。13時10分、港についたら大変な行列が出来ていた。結局、目の前でフェリーには乗れず、臨時の遊覧船で13時30分出航。船中で先ほど買った鶏飯、鶏の唐揚げで昼食。

高見島

 14時高見島に着く。港の広場にta18 Merry Gates:内田晴之、2022年:高見島の人々や外から来る人々が、楽しく幸運な方向に向かうためのきっかけとして存在する、高さ約3m、横幅7mを超える大きな野外彫刻。

 港を出て左手に向かうとta02 時のふる家:中島加耶子、2016年:壁に貫通したカットしたアクリル板を通して光が古家に鋭く入り、室内を照らす。刻々と変化する光は家を暴力的に貫通することで時代の流れや変化によって翻弄される島の姿を浮かび上がらせる。

ta18                        ta02                      ta02

 もと来た道を戻り、港を過ぎてしばらく行くと高見いこいの家があり、その前から左手に登る急坂を進む。途中左手に旧高見小・中学校がある。そのうち前方に高い石垣の上に家が見えてくる。高見島では江戸時代の大火の後、人名(有力者)が中心になって斜面に石垣を築き、計画的に建てられた集落が今も残る。特徴は細い露地と急な階段で、その脇に見事な石垣を見ることが出来る。

高見島地図                   集落への急坂               中塚邸の石垣

 集落の入り口に当たる中塚邸にta19 Re:mind:山下茜里、2022年:空家に漂う、残されたモノの気配を描き可視化する。押入れのふすまが開かれ、畳が剥がし捲られるとき、隠されたモノは何を思うのだろう。

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 細い道を進み、急な階段を降りるとta14 待つ点:Eri Hayasi、2022年:文章の書かれたプラスティックの板がピンで真っ白な壁にとめられている。ガイドブックのものとは違うようだ。

ta14                       ta14                下:ta14がある家屋

 その上の家にta05 まなうらの風景2022:村田のぞみ、2019年、22年:真っ暗な空間にステンレスの網による造形が浮かび上がる。雲の中にいるようでなかなかきれい。

ta05                       ta05                       ta05

 その隣にta16 高見島の木:竹腰耕平、2022年:高見島の空き地に穴を掘り、自然との関わり方を再考する試み。人々にとっても、自然にとっても居心地の良い環境のための整備を行う。ガイドブックのこの作品の位置が間違っている。

ta16、屋内にも根っこが              ta16                       ta16

 その隣にta14 待つ点:Eri Hayasi、2022年:家の中に設置されたブルーキューブから流れる音を楽しみ、窓からは青い空と海を一望できる。

 その少し先にta07 過日の同居2022年:藤野裕美子、2019,22年:築80年の空家の1階に、高見島の廃村である板持地区のリサーチをもとに描かれた過去の作品を一部リニューアル。屋根裏部屋では、新たな作品が展開される。

石垣の町並み                   ta14                      ta07
ta07                        ta07                      ta07
ta07                      ta07                    ta11へ下る道

 その下にta11 海のテラス:野村正人、2013年。海を一望できるイタリアンレストラン&コーヒースタンドで過疎化した高見島の再興を目的として、2013年から継続している食プロジェクト。浦地区の急な斜面を利用したランドスケープ・デザインで、瀬戸内海を一望しながら地域食材を用いた料理を楽しむことが出来る。

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 その敷地内にta20 FLOW:ケンデル・ギール、2022年:高さ3m、横幅6mの大きな壁。焼杉を主な素材とし、埋め込まれた鏡やガラス越しに瀬戸内海や島々が広がるように設計されている。景色を眺めながらゆっくりと過ごす時間が、自然の持つ美しさを再認識させる。

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 道に戻ってすぐ隣にta08 うつりかわりの家:中村伽耶子、2013年:古家の屋根や壁に小さな穴を膨大に開け、アクリル棒を埋め込んだインスタレーション。等間隔に規則正しく開けられた孔から時間や天気、季節によって変化する自然の光が入り、室内をやさしく照らし出す。崩れかかった廃屋を補強し、屋根を葺き直して無数の穴をあけたという根気に感服する。

ta08                       ta08                 集落を見下ろす

 ここから山の方へ上り、突き当たって左折すると大聖寺の門前に出る。その右手の坂道を進むとta10 はなのこえ・こころのいろ:小枝繁昭、2019年:高見島で出会った花をテーマに制作された写真、障壁画、陶製オブジェクトなどの作品で、「見ることの喜び」と「心地よい身体性」を伴った空間を生み出す。

 同じ建物の2階にはta13 高見島パフェ:西山美なコ、2022年:シュガーペーストで造形した約500個のピンク色のバラが、高見島で採取されたものと盛り付けられ、時間と共に溶けてゆく。甘美なる夢のようなバラという存在がとろけゆく姿は、人々の目にどう映るのだろうか。

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 来た道を戻って大聖寺に寄る。山門の屋根を力士像が支えている。海の方に向かって少し下り、左から来る道との角にta17 通り抜けた家:鐵羅佑、2022年:人の営みがなくなり、今にも消えてしまいそうな廃屋を鉄パイプの骨組みが鋭く突き抜ける。その間を吹き抜ける風が、確かな家の存在を可視化する。

大聖寺山門、鐘楼を兼ねている        棟を支える力士像                   ta17
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 その隣にta15 かたちづくられるもの鈴木健太郎、2022年:高見島の人同士の繋がりと、社寺仏閣に無数に貼られた千社札のイメージを重ね合せて制作されたインスタレーション作品。

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 すべての作品を見終わって港に戻る。16時35分高見島港着。17時高見島港出航。17時25分多度津港着。シャトルバスで多度津駅へ。多度津駅17時40分発で丸亀へ。

 丸亀駅前広場に面してho18 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、企画展・常設展丸亀市ゆかりの画家・猪熊弦一郎の作品を所有する美術館。現代美術を中心とした企画展なども人気。建築設計は谷口吉生。美也子は売店でスカーフを買う。代金の一部6000円は昨夜ホテルでもらった地域クーポン。

丸亀駅前広場に面したho18           ho18、正面                 ho18、外階段

 丸亀駅に戻り土産に和三盆、半生うどんなど買う。仁に丸亀港まで車を取りに行ってもらい、隣の宇田津駅前広場に面したホテルアネシス瀬戸大橋にチェックイン。旅行支援クーポン3916円/人、地域クーポン1000円/人。夕食はホテルのレストランでしゃぶしゃぶ定食+ビュッフェ。料理はおいしく、薄くスライスした餅なども珍しかった。

ho18、ラウンジ             しゃぶしゃぶ定食        しゃぶしゃぶ定食、野菜、茸など
つみれ、餃子、薄切餅              ハマグリ                生ハム、サラダ

 

(つづく)